ビタミン欠乏症 vitamine deficiency




ビタミンA欠乏症

捍体の視物質であるロドプシンはopsinとretinalの複合体であるが、retinalはビタミンAから生成される。このためビタミンAの欠乏は、夜盲症などの視覚障害をもたらす。ビタミンAは脂溶性。

ビタミンB
  • ビタミンB1, サイアミン thiamine
    ブドウ糖代謝に重要な酵素であり、サイアミンの欠乏は脚気 beriberi やウェルニッケ脳症をもたらす。
  • ビタミンB2, リボフラビン riboflavin
  • ナイアシン, ニコチン酸 niacin, nicotinic acid
    ニコチン酸の欠乏はペラグラをもたらす。
  • ビタミンB6, ピリドキシン pyridoxine
  • ビタミンB12, コバラミン cobalamine
    赤血球の成熟に必要であるから、コバラミンが不足すれば巨赤芽球性貧血を生じる(悪性貧血)。
ビタミンC欠乏症
  • 壊血病 scurvy
    ビタミンCの欠乏によって生じる疾患。コラーゲンの構成要素となるヒドロキシプロリンはプロリン残基を水酸化することによって得られるが、この反応にビタミンCが補因子として働いている。そこでビタミンCが欠乏するとトロポコラーゲン間の架橋形成ができず、結合組織が脆弱になる。
ビタミンD欠乏症
  • 皮膚におけるビタミンD
    食事から摂取されたプロビタミンD3は紫外線によって活性化ビタミンD3になる。ビタミンD3は肝臓及び腎臓で水酸化されて活性型に転じ、PTHとともに血中のカルシウムを増加させる。
  • 機序
    ビタミンDは腸管でのカルシウム吸収を促進する働きを持つ。したがってその欠乏は、低カルシウム血症をもたらす。
  • 疾患
    • 骨軟化症(くる病)
      石灰化の不充分な類骨組織が過剰に生じる。
ビタミンE欠乏症

ビタミンEはフリーラジカルの作用を阻害する抗酸化剤として働く。

ビタミンK欠乏症

ビタミンKは prothrombin と凝固因子(VII, IX, X)を肝臓で産生する際に必要とされる。

ペラグラpellagra

概念

主としてニコチン酸欠乏による栄養障害性疾患であり、典型的には皮膚・消化器・精神神経症状を主徴とする。晩発性皮膚ポルフィリン症との鑑別を要する。

病因

ニコチン酸あるいはその前駆物質であり必須アミノ酸のひとつであるトリプトファンの摂取不足あるいは吸収障害に起因する。本症はトリプトファンからニコチン酸が生合成される過程や、NADの生合成を阻害する種々の薬剤により発症することがある。

  • 摂取障害
    トウモロコシを主食とする国に好発する。

    • 慢性アルコール中毒
      食事摂取が不十分であることに起因する。
    • 基礎疾患による吸収不良
  • 代謝障害
    • 薬剤
      • イソニアジド INHが特に有名
        トリプトファンからニコチン酸への代謝を阻害するから。
      • hiosemicarbazone 誘導体
      • フルオロウラシル, 5-FU
      • メルカプトプリン, 6-MP
        プリン塩基のアナローグで、正常の核酸代謝を阻害して抗腫瘍作用を示す抗癌剤。
    • 悪性カルチノイド
      セロトニン合成のためにトリプトファンが消費されるから。
    • ビタミンB6不足
病態生理

そもそもニコチン酸はトリプトファンから生合成され、補酵素NADやNADPの構成成分として生体内の酸化還元反応に関与するほか、損傷されたDNAの修復過程にも関与する。

その欠乏は高エネルギーが要求される脳や速いターンオーバーを必要とする皮膚や粘膜の障害となって現われやすい。

症状

典型的にはいわゆる3D(dementia,diarrhea,dermatitis)を呈する。

  • 精神神経症状
    痴呆、譫妄をきたす。躁、鬱状態、錯乱、幻覚妄想までと多彩な精神症状を現わすこともある。神経症状としては、錐体路症状のほかに、ミオクローヌスや痙攣発作などがある。
  • 皮膚症状
    一種の光線過敏症を呈し、頚部のネクタイ状紅斑が本症に特徴的とされる。

    • カザール頸帯 Casal’s necklace
    • gauntlet of pellagra
  • 消化器症状
    下痢が最も多いが、逆に便秘のこともある。
  • 貧血
治療

ニコチン酸アミド(300∼600[mg/day])を急性症状が消失するまで経口投与する.ペラグラの三主徴がそろうまで待っていては手遅れになるので、早期に治療を開始する。

ペラグラ脳症
症状
  • 譫妄
  • 知能低下
  • 眼振
  • 失調
  • 深部腱反射亢進

ビタミンB6欠乏症,ビタミンB6依存症

概念

ビタミンB6はアミノ酸代謝と糖代謝を連携する重要な補酵素である。ビタミンB6は食物に含まれており、したがって欠乏は主に吸収障害によって生じる。ただし乳児では人工乳のなかにビタミンB6が不足して本症を発症することがある。

症状
  • 多発神経炎
  • 乳児では痙攣発作
  • 鉄芽球性貧血

ビタミンC欠乏症

病態生理
  • 壊血病 scurvy
    ビタミンCの欠乏によって生じる疾患。
  • 創傷治癒の阻害
壊血病 scurvy
概念

ビタミンCの欠乏によって生じる疾患である。コラーゲンの構成要素となるヒドロキシプロリンhydroxyprolineはプロリン残基を水酸化することによって得られるが、この反応にビタミンCが補因子として働いている。

そこでビタミンCが欠乏するとトロポコラーゲン間の架橋形成ができず、結合組織が脆弱になる。

原因

ビタミンCは新鮮な野菜や果実に豊富であるため、これらの摂取が不足すると発症する。

症状

結合組織が脆弱になって毛細血管抵抗が減弱し、出血傾向をきたす。

  • 紫斑
  • 粘膜出血

ビタミン 欠乏症
水溶性
ビタミン
ビタミンB1
(チアミン)
脚気
ウェルニッケ脳症 (意識障害, 精神障害)
ビタミンB2
(リボフラビン)
口角炎, 口唇炎, 口内炎, 舌炎, 羞明, 流涙, 脂漏性皮膚炎
ビタミンB6
(ピリドキシン)
貧血, 多発性末梢神経炎, 脂漏性皮膚炎, 口角炎, 舌炎
パントテン酸 四指のしびれ感, 足の灼熱感
ナイアシン
(ニコチン酸)
ベラグラ (皮膚炎, 下痢, 痴呆)
葉酸 巨赤芽球性貧血, 下痢, 舌炎
ビタミンB12
(シアノコバラミン)
巨赤芽球性貧血, ハンター舌炎, 末梢神経炎, 亜急性連合性脊髄変性症
ビオチン 脂漏性皮膚炎, 舌炎, 筋肉痛, 悪心, 嘔吐
ビタミンC 壊血病
脂溶性
ビタミン
ビタミンA 夜盲症, 眼球乾燥, 皮膚乾燥・角化
ビタミンD くる病, 骨軟化症
ビタミンE 溶血性貧血, 未熟児で浮腫, 脱毛
ビタミンK 出血傾向, メレナ (血便)