摂食障害 eating disorder




概念

食行動が正常でない状態。多くは精神病理的背景を持つ。
摂食障害は大きく拒食症、過食症に分類される。

分類
  • 神経性食欲不振症
    神経性食欲不振症では体重が期待される値より少なくとも15%以上下まわり、肥満への恐怖を伴なう。視床下部下垂体性腺系の障害により、女性では無月経がみられ、成長ホルモンの上昇や甲状腺ホルモンによる末梢の代謝の変化やインスリン分泌の異常が認められることもある。
  • 神経性大食症
    神経性大食症は発作的に繰り返される過食と体重のコントロールに過度に没頭することが特徴である。発症年齢は神経性食欲不振症よりもやや高い。反復する嘔吐により電解質の異常や身体的合併症が生じることがある。
  • 異食症
  • 幼児期の反芻性障害
  • 特定不能の摂食障害

神経性食欲不振症 anorexia nervosa, AN

概念1),2),3)

本症では体重が期待される値より少なくとも15%以上の低下が見られ、肥満への恐怖を伴なう。視床下部下垂体性腺系の障害により、女性では無月経がみられ、成長ホルモンの上昇や甲状腺ホルモンによる末梢の代謝の変化やインスリン分泌の異常が認められることもある。圧倒的に女性に多く、12∼25歳の発病である。身体合併症による致死率が低くない(5∼10%)。

分類1)
  • restricting type(制限型)
  • binge-eating/purging type(過食/排出型)
病態生理

本症は、内向的で自己中心的な性格や潔癖などの性格を有するものに多い。こうした性格を基盤として、思春期に達すると家庭環境、なかでも母に対する反感や自身が女性として成熟することへの抵抗、肥満に対する嫌悪、対人関係の破綻などの心理的原因が大脳皮質を介して視床下部に作用し、食欲中枢や性中枢の機能的障害をきたし、食欲不振や月経異常などの症状を引き起こす。

  • 視床下部性無月経
    視床下部からのGnRHの分泌が低下する。
  • 低代謝状態
    • low T3 症候群4)
      TSHおよびT4の分泌は正常であるが、低代謝状態に適応するために、T4から活性化型T3への転換が抑制され、かえって不活性型のreverseT3への転換が進行する。
  • 栄養障害
    • 低コレステロール血症
症状

精神的な基盤の上に起こる食欲不振・羸痩・月経不順を主徴とする。

  • 食欲不振・羸痩・月経不順が主症状
    なかでも無月経は必発症状である。
  • 徐脈・低体温
    low T3 症候群により、代謝が低下するから。
  • 産毛増加
  • 低血圧
    嘔吐や下剤の乱用により循環血液量が減少するために低血圧となる。
  • 食行動の異常
    不食・隠れ食いなど。
  • 活動性の亢進
    飢餓状態では麻薬類似作用を持ったβエンドルフィンの分泌が亢進するからと考えられている。ただし過食になると二次的に抑鬱状態に陥り、自殺企図を認めることもある。
  • 病識欠如
    体重減少性無月経との鑑別点として重要である。
  • 便秘

なお腋毛や恥毛は正常であり、下垂体機能低下症との鑑別になる。

検査所見
  • ゴナドトロピン低値
    視床下部からのGnRH分泌低下によるものであり、下垂体そのものの反応性は低くない。
  • rT3 増加
    TSHおよびT4の分泌は正常であるが、低代謝状態に適応するために、T4から活性化型T3への転換が抑制され、かえって不活性型のrT3への転換が進行する。
  • 低カリウム血症
    下剤や利尿剤の乱用による。心電図所見低カリウム血症による異常を呈する。
  • 成長ホルモン高値
    摂食障害から低血糖となるが、これに反応して成長ホルモンの分泌が亢進する。
治療

神経性過食症 bulimia nervosa

概念

摂食障害の一つであり、発作的に繰り返される過食が特徴である。過食に加えて自ら誘発する嘔吐、緩下薬や利尿剤の乱用もしばしば見られる。経過中に神経性食欲不振症への移行がしばしば認められ、本症は神経性拒食症と同一の基盤に立つものと考えられている。ほとんどが思春期から成人前期の女性に好発する。

分類
  • 排出型 purging type
    定期的に嘔吐したり、下剤を飲んだりするなどの浄化行動 purging behavior が見られる。
  • 非排出型 nonpurging type 絶食や運動で食欲を補償する。
症状
  • 大食あるいは気晴らし食い binge eating
    自己非親和的で制御不能な激しい食欲が突発し、短期間のあいだに大量の食物を摂取する。
  • 自己誘発性嘔吐
    本症に特徴的である。
  • 精神症状
    精神症状として抑うつ気分・無気力・不安などがみられやすい。特に過食後に嘔吐したあとで自己の行動に対する自責の念から抑欝症状を呈することが多い。

    • 強迫症状
      反復する過食と嘔吐がこれに該当する。
  • 身体症状
    体重変動が激しいため月経不順を呈することが多いが、必発症状ではない。
  • 肥満
    ただし嘔吐や下剤乱用などの浄化行動 purging behavior によって必ずしも肥満でない場合もある。
検査所見

排出による低カリウム血症や脱水がしばしば認められる。

治療

 

1) 山下 達久, 摂食障害の急激な増加と病像の変化について(<特集1>第30日本女性心身医学会学術集会報告), 女性心身医学, 2001, 6 巻, 2 号, p. 194-198
2) 岡本百合 他, 摂食障害における認知面の理解とアプローチ, 精神神経学雑誌, 2010, 112巻, 8号, p. 741-749
3) 中井 義勝, 任 和子, 鈴木 公啓, 思春期以降の回避・制限性食物摂取症の臨床症状について, 心身医学, 2017, 57 巻, 1 号, p. 69-74
4) 西川 光重, 豊田 長興, 稲田 満夫, 低T3・T4症候群, 日本内科学会雑誌, 1996, 85 巻, 5 号, p. 772-776