多発性骨髄腫 multiple myeloma




概念

骨髄腫とは、形質細胞が単クローン性に増殖する腫瘍性疾患であり、単一の免疫グロブリンをモノクローナルに産生し分泌する。B細胞が分化の最終段階で腫瘍化したもので、骨髄内に限局しながらも多発するために多発性骨髄腫と命名された。

好発年齢は高齢者であり、慢性に経過するものから腎不全によって急性に死に至る症例まで臨床経過が症例ごとに多彩である。

分類

  • タンパク型分類
    • IgG型
    • IgA型
    • IgD型
    • IgE型
    • Bence Jonesタンパク型
  • 臨床病期分類
    • stage I
    • stage II
    • stage III

病因

転写因子BSAPをコードするPax-5遺伝子の変異が発症に関係していると考えられているが、このほかにも多数の因子が関与すると言われる。原爆被爆者の追跡調査から、放射線被爆後に数十年を経て本症を発症する頻度が高いことが判明している。

なおIL-6は本症において腫瘍細胞を増殖させる作用を持つ。

病態生理

  • 腫瘍細胞の増殖に伴う病態
    • 骨病変
      腫瘍細胞から遊離される物質 (破骨細胞刺激因子 OAF) が破骨細胞を活性化することによって全身的な骨の融解が起こる。腫瘍細胞が存在する赤色髄に生じる。
    • 汎血球減少
      骨髄腫細胞の増殖が他の造血を抑制するため。· 赤血球減少による貧血 · 血小板減少による出血傾向 ·白血球減少による易感染傾向
  • Mタンパクによる臓器障害
    骨髄腫細胞はMタンパク(単一の免疫グロブリンまたはその軽鎖であるBence Jonesタンパク)を産生して種々の臓器に障害をもたらす。

    • Bence Jonesタンパク
      骨髄腫患者の尿中に排泄される異常タンパクで、免疫グロブリン のL鎖が遊離したもの。もっぱらL鎖のみが産生される骨髄腫をBence Jones 型という。Jonesタンパクは尿細管を損傷して骨髄腫腎を招くほか、他臓器に沈着してAL型アミロイドーシスを生じる。

      • ALアミロイドーシス
        Jonesタンパクが腎臓に沈着すると腎アミロイドーシスとなり、肝臓に沈着すると肝腫大を呈する。ほかにも舌炎の疼痛、皮疹、心機能低下をもたらす。
    • POEMS症候群 Crow-Fukase syndrome
      多彩な全身症候と免疫グロブリン異常を伴う多発神経炎である。
    • 過粘稠度症候群
      Mタンパクによって血液の粘性が増加し、これによって細小血管の循環障害を来たす。
    • 尿タンパク Mタンパクは分子量が大きいため腎障害を来たして初めて尿中に漏出する。やがて慢性腎不全に発展する。
    • 凝固障害
      Mタンパクは凝固因子を障害する作用を持つ。
  • 血清β2-ミクログロブリンの増加
    Mタンパクではないが腫瘍細胞から産生されて血中で増加を示し、腎障害があると尿中に漏出する。

症状

骨病変による疼痛を初発症状とし、これに加えて貧血による全身倦怠感が主要な症状となる。

  • 病的骨折が特徴的
    本症を特徴づける病変であり、また患者の日常動作能力を左右する。
  • 貧血はほぼ必発である
  • spine knock pain

検査所見

  • 血清タンパク
    • A/G比減少
    • 電気泳動
      ほとんどの症例にて単クローン性の高γグロブリン血症が証明される。
    • 血清β2-ミクログロブリン (β2M) が増加する
      増加したβ2M は尿中に漏出し、腎障害の指標となる。
  • タンパク尿
    尿中に単クローン性のL鎖タンパクが検出される。ただし試験紙法では見逃されてしまうので要注意である。
  • 赤沈亢進
    Mタンパクおよび貧血のため赤沈は著明に亢進する。
  • 画像検査
    • 単純写真所見
      骨質破壊による打ち抜き像 punched out が見られる。好発部位は頭蓋骨・骨盤骨・上腕骨・大腿骨・肋骨である。
    • 骨シンチグラフィ
      転移性骨腫瘍ほどには検査の感度がよくない。
    • MRI所見
  • 高カルシウム血症
    骨融解とPTHrP産生による溶骨に起因する。
  • 表面マーカー
    成熟した正常なB細胞表面に見られるCD19が腫瘍細胞では多くの場合に陰性となり、かわってCD38やCALLA(CD10)が発現している。
  • 骨髄穿刺
    形質細胞の増加が見られ、確定診断となる。
  • ALP高値
    肝アミロイドーシスの合併を強く示唆する。

病理所見

  • 抹消血標本
    • 赤血球の連銭形成 roueaux formation
      高γグロブリン血症によって血液の粘性が増大するからであり、本症に特異的ではない。
    • 悪性形質細胞の出現
      ただし腫瘍細胞と正常の形質細胞を形態から区別することはできない。
  • 骨髄標本
    形質細胞の増加が見られる。形質細胞は、青っぽい細胞質に核の遍在と核周明庭が見られるのが特徴である。細胞質が青っぽいのはリボゾームに富んでタンパク合成が盛んなことを意味し、核周明庭はゴルジ装置の発達を意味する。いずれも免疫グロブリンというタンパクの産生が亢進していることを示唆する。

治療

予後不良であり、危険な免疫抑制を行うため、治療には検討を要する。治療の目的は治癒よりもむしろ寛解導入である。なおβ2-ミクログロブリンが予後因子としてもっとも重要であると言われている。

  • 化学療法
    本症の腫瘍細胞は細胞周期が長いため、化学療法は奏功しにくい。

    • MP療法
      melphalanとpredonisoloneによる二剤併用療法である。
    • VAD療法
      vincristine,adriamycin,dexamethazoneによる三剤併用療法である。
    • インターフェロンα
      特にIgA型に有効性が高いと言われている。
  • 血漿交換療法
  • 放射線治療
  • 骨髄移植
    多くの症例は高齢者であり、また骨髄腫細胞を根絶することが困難なことから、その成績は必ずしも良好ではない。

参考)中村 利孝, 標準整形外科学 第12版; p.383-384 (骨腫瘍各論 – 骨髄腫)
参考)医療情報科学研究所, 病気がみえる vol.5: 血液; p.134-139 (リンパ系腫瘍 – 多発性骨髄腫)

 

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