全身性エリテマトーデス systemic lupus erythematosus, SLE




概念

全身性エリテマトーデスは、抗核抗体などのさまざまな自己抗体の産生によって細胞の破壊あるいは機能障害が生じ、さらにおびただしい量の免疫複合体が産生されて組織に沈着することによる全身的な多臓器病変がもたらされる疾患である。

疫学

罹患率は人口10万人当たり5〜10人。男女比は1:9〜10と圧倒的に女性に多い。20〜40代に好発する。また人種差を認め、黒人は白人より頻度が高く、また重症化しやすい.

病因
  • 環境的因子
    ストレス、炎症を誘発させる食事、感染性病原体、紫外線や薬物など。
  • 遺伝的因子
    一卵性双生児の一致率69%、同一家系内の発生率0.434%と遺伝的因子の関与もみられる。
  • ホルモン因子
    妊娠可能な女性に多いことから、性ホルモン(特にエストロゲン)の関与も考えられる。末梢血の単核球アポトーシスの誘導低下、TNF-α産生低下、抗核抗体の産生亢進などの作用が確認されている。
症状

特に疾患特異性の高い所見は、蝶形紅斑・円盤状皮疹・口腔潰瘍・光線過敏症である。

検査所見
  • lupus band test
    生検した皮膚からIgMなどの沈着を蛍光抗体法によって検出する試験である。SLEでは無疹部においても約半分は陽性となるが、DLEでは無疹部では陰性である。
  • 免疫血清学的検査
    抗DNA抗体・抗ENA抗体・抗NAPA抗体・抗RNP抗体・抗Sm抗体・抗SS-A抗体・抗SS-B抗体・抗PCNA抗体などが陽性となることがある。

    • 自己抗体
      特に抗dsDNA抗体と抗Sm抗体は標識抗体として本症の診断に有効である。

      • 抗核抗体
        抗核抗体はほぼ全例で陽性となるが、他の多くの疾患でも陽性となるため、診断的価値は低い。
      • 抗DNA抗体
        抗dsDNA抗体が多くの症例で陽性となり、疾患特異性が高い。特にループス腎炎の病態形成に関与するため、活動性の指標にもなる。
      • 抗Sm抗体
        抗Sm抗体は陽性率は低いがSLEに特異的な自己抗体である。
      • 抗SS抗体
        母親の自己抗体(特に抗SS-A抗体、抗SS-B抗体)が胎盤を経て胎児にはいることによって新生児にディスコイド皮疹が発症する。
    • 抗リン脂質抗体 lupus anticoagulant
  • 血沈亢進
    病勢判定の指標となる。
  • 汎血球減少
    • 白血球減少
      リンパ球を主体とした白血球減少が見られる。これは主としてT細胞の減少による。白血球が増加した場合は感染症の合併を疑う必要がある。
    • 血小板減少
  • 血清補体価低値
    活動期には血清補体価(C3、C4、CH50)すべてが低下するため、活動性の指標となる。特にループス腎炎で顕著に低下する。しかし疫学的な解析の結果から、診断項目には入っていない。
  • LE因子
    LE因子とはDNAとヒストン複合体に対する自己抗体である。歴史的には抗核抗体研究の端緒となったが、現在では診断基準から除外されている。
  • ループス腎炎による尿所見
    • タンパク尿
    • 多彩な尿沈渣(望遠鏡的沈渣)
  • 血清梅毒反応の生物学的偽陽性 BFP-STS
  • 眼底所見
    • 綿花様白斑 cotton-wool spots
      網膜の細動脈が閉塞して生じた網膜梗塞が基盤にある。
  • LE細胞 lupus erythematous cell 1)
    SLEの骨髄塗抹標本中に発見された均一無構造なヘマトキシリン体を含む好中球である。SLEを中心とする膠原病に多く見られる。
治療
  • ステロイド
    特に炎症反応が強く、補体価が低下しているような活動性のSLEには第1選択となる。
  • シクロスポリン

参考)東洋療法学校協会編, 臨床医学各論 第2版; p.277(膠原病 – 全身性エリテマトーデス)
参考)医療情報科学研究所, 病気が見える vol.6 免疫・膠原病・感染症 第1版; p.72-79 (膠原病 – 全身性エリテマトーデス)
参考)医学教育出版社, 新・病態生理できった内科学 6 免疫・アレルギー・膠原病 第2版; p.126-135 (膠原病 – 全身性エリテマトーデス)

1)佐々木 毅, 7. LE細胞現象, 日本内科学会雑誌, 2002, 91 巻, 9 号, p. 2581-2585