概念
乳管上皮由来の癌であり、日本では近年、増加傾向にある。
乳腺はエストロゲンの作用により増殖するため、乳腺細胞から発生する癌の多く(約60〜70%)がホルモン受容体をもち、エストロゲンに曝されることにより増殖が促される。
転移先は骨・肺・肝臓・脳が多いが、対側の乳腺に転移することもある。比較的早期より血行性に転移をなすので、全身疾患としての性質が強い。
病因
- 危険因子
- エストロゲン暴露期間が長い
初経が早く閉経が遅い場合や閉経後にエストロゲン補充療法を行なっている場合など。 - 高脂肪食
- 短い授乳期間
初産年齢が遅く、出産回数も少ない者などが該当する。 - 乳癌の既往
- 肥満女性
- 乳腺症などの良性乳腺疾患の既往歴
稀ながら乳腺症が悪性化することがある。
- エストロゲン暴露期間が長い
- 遺伝子
近年、17番染色体上のBRCA1ならびにBRCA2遺伝子が乳癌の発症と関係していることが判明した。なかでもBRCA1遺伝子は乳癌のみならず家族性の卵巣癌にも関与している。
症状
- 視診所見
- 橙皮状皮膚 peau d’orange, pig skin
浸潤した癌がリンパ管を閉塞すると浮腫を生じ、乳房の皮膚が豚の皮膚の様相を呈する。 - 乳頭偏位 pointing
乳頭付近の癌では、癌の浸潤によって乳頭が癌のほうへと牽引される。 - 乳頭陥凹
- 乳汁分泌
- 血性乳頭分泌
- 橙皮状皮膚 peau d’orange, pig skin
- 触診所見
無痛性で硬い腫瘤を触知する。乳房外上方が好発部位となる。なお触診は仰臥位および坐位にて2∼5指の腹を用いる。- えくぼ徴候 dimpling sign 特に癌が乳房提靭帯に浸潤すると触診で皮膚をつまむと皮膚が陥凹を呈する。癌の皮膚浸潤を示唆する所見である。
- 娘結節, 衛星皮膚結節 satellite skin nodule
進行癌において主病巣の周辺に生じる。
検査所見
- 乳房超音波検査所見
- 辺縁粗雑
- 形状不整
- 境界エコー不規則
- バック・エコーの不均一
良性 | 悪性 | |
---|---|---|
境界 | 規則的 | 不規則的 |
内部エコー | 繊細均一 | 粗雑不均一 |
底面エコー | 増強 | 減弱 |
- マンモグラフィー
老人ほど乳腺が脂肪に置換されているので、癌を検出しやすい。- 濃厚腫瘤陰影
病巣部が周囲より明るく、辺縁不整で濃淡不均一な濃厚陰影を呈する。腫瘤の大きさは触診よりも小さく描出される。 - 周囲に向かう針状突起 spicula
- 集ぞくする微小石灰化像
微細で砂状の石灰化は悪性の所見であり、60%で陽性となる。微小石灰化像は特に面疱癌に多い。 - 乳頭に向かう管状陰影
これは癌がしばしば管内性に進展するからである。
- 濃厚腫瘤陰影
- 乳房圧迫スポット撮影
- 腫瘍マーカー
- CEA
- CA15-3
代表的な乳癌の腫瘍マーカーである。乳癌の腫瘍マーカーのなかではもっとも高い陽性率を誇る。 - NCC-ST-439
- BCA225
- 針生検
陽性であれば確定診断となるが、陰性であっても癌を否定できないのは当然である。 - MRI
感度は高いが特異度があまり高くなく、マンモグラフィーと併用されることでより高い診断が可能となる。
分類別病理所見
- 小葉癌 lobular carcinoma
腺癌の一種であり、小細胞から構成される。- lobular carcinoma in situ
- invasive lobular carcinoma
- 乳管癌 ductal carcinoma
乳管上皮由来のガン。 - 乳頭腺管癌 papillotubular carcinoma
腺腔形成と乳管腔、癌腺腔に向かう乳頭状の突出を特徴とする高分化型乳癌。マンモグラフィーで石灰化がみられる。 - 未分化癌
- 硬癌 scirrhous carcinoma
腫瘍細胞は索状や小腺管を形成しており、間質には結合組織の顕著な増生がある。
- 硬癌 scirrhous carcinoma
乳管癌 ductal carcinoma
概念
乳管上皮由来のガンをいう。
分類
浸潤の有無によって
- 非浸潤性乳管癌, 乳管内癌 noninvasive ductal carcinoma, intraductal carcinoma
乳管上皮由来のガンで間質への浸潤のないものをいう。 - 浸潤性乳管癌 invasive ductal carcinoma
癌細胞が間質に浸潤しているものをいう。
病変の形態によって
- 篩状癌 cribriform
- 面疱癌 comedo
乳癌の治療
概念
乳癌はリンパ行性に腋窩リンパ節に転移するほか、後期では血行性に骨や肝臓に転移する。明らかな症状を欠く微小転移を遠隔臓器になすため、化学療法や放射線療法による全身管理が不可欠となる。
外科的切除が第1選択の治療法である。ただし、根治手術が不能な症例や再発例では化学療法と内分泌療法が治療の主体となる。
分類
- 薬物療法
- 抗癌剤
術前化学療法もしくは術後化学療法として行なう。適応は、腋窩リンパ節転移、大きさが2cm以上、エストロゲン受容体とプロゲステロン受容体がともに陰性であること。- 術後化学療法
5-FUをはじめアドリアマイシンなどの併用療法を行なう。 - 術前化学療法
- 術後化学療法
- ホルモン療法
抗エストロゲン剤であるタモキシフェンを利用する。これは特にエストロゲン受容体が陽性の症例に奏効する。- タモキシフェン
- GnRHアナローグ療法
下垂体でGnRHと競合し、下垂体からのゴナドトロピン分泌を抑制する。ただし閉経後では標的臓器である卵巣が反応しないので不適切である。 - 卵巣切除術
- erbB2に対するモノクローナル抗体
erbB2は膜上の増殖因子であり、モノクローナル抗体でこれをブロックする。 - ビスホスホン酸 bisphosphonates
骨基質に結合して破骨細胞の機能を抑制するため、高カルシウム血症を伴なう骨転移に有効である。
- 抗癌剤
- 放射線照射
乳癌は腺癌としては例外的に放射線感受性が高い。 - 外科的切除
- 乳房切除術
- 定型的乳房切除術,ハルステッド法,胸筋合併乳房切除術 standard
radical mastectomy Halsted
乳房と胸筋を切除する術式である。近年ではあまり利用されず、適応は腋窩リンパ節転移の高度な症例などに限定されている。 - 非定型的乳房切除術, 胸筋温存乳房切除術 modified radical mastectomy
現在の主流である。
- 定型的乳房切除術,ハルステッド法,胸筋合併乳房切除術 standard
- 乳房温存術 breast conserving surgery, lumpectomy
乳房を部分的に切除し、腋窩リンパ節を郭清する。術後には50Gy程度の放射線療法を行なう。主な適応は病期I期で乳頭から3cm以上離れたものである。ほかには腫瘍径が3cm以下・孤発性・放射線照射可能例などが適応条件となる。
- 乳房切除術
乳癌の好発部位
(ICD-O局在) | 部位 | 癌発生率 |
---|---|---|
C50.2 | A:内上部 | 20% |
C50.3 | B:内下部 | 5% |
C50.4 | C:外上部 | 50% |
C50.6 | C’:腋窩部 | |
C50.5 | D:外下部 | 10% |
C50.1 | E:乳輪部 | 5% |
C50.0 | E’:乳頭部 | |
C50.8 | 複数領域 | 10% |
典拠)医療情報科学研究所, 病気が見える vol.9 婦人科・乳腺外科; p.208 (乳癌の好発部位)
参考)東洋療法学校協会編, 臨床医学各論 第2版; p.312(婦人科疾患 – 乳癌)
参考)医療情報科学研究所, 病気が見える vol.9 婦人科・乳腺外科; p.204-225 (乳腺外科 – 乳癌)
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