概念
全身性硬化症(全身性強皮症)は、指先(四肢末端)に始まる皮膚の硬化と血管病変(レイノー現象と小血管の循環障害)を主徴とした病変が、内臓を含む全身(皮膚・消化管・肺・心筋など)結合組織に広がる慢性炎症性疾患。皮膚の硬化が特徴なので、かつては強皮症と呼ばれたが、現在では全身性の系統的疾患と考え、全身性硬化症と言われる。
疫学
有病率は人口10万当たり約6人。男女比は1:7。好発年齢は35〜55歳で40代に発症のピークがみられる。
成因と病態生理
病因不明であるが、自己免疫、サイトカイン、コラーゲン代謝、血管障害などの関与が見出されている。基本病態は結合組織の線維化と微小血管閉塞である。何らかの免疫異常が線維芽細胞に作用して膠原線維の増生が亢進し、皮膚の硬化を来たすと考えられている。
- 自己抗体
- 免疫異常
Tリンパ球の異常が認められている。 - 線維症
皮膚硬化・肺線維症などの病変には膠原線維の集積が認められる。原因として、細胞性免疫の異常によって線維芽細胞が増殖し、さらにコラーゲンやグリコサミノグリカンの産生を制御するサイトカインの異常が加わって、線維化が促進されるとする仮説がある。なお近年、TGF-βは線維芽細胞を活性化する作用を持つことから、本症への関与が示唆されている。 - 炎症性病変
血管内皮の障害によって微小血管閉塞や血栓性血小板減少性紫斑病をきたす。
症状
初発症状はレイノー現象や関節炎である。
- 抹消血管症状
レイノー現象 raynaud phenomenon
本症でよく見られる、動脈収縮による手指の血流障害である。寒冷刺激によってまず皮膚の色は蒼白となり、続いてチアノーゼを呈し、回復時に紅潮する現象である。 - 皮膚症状
浮腫期→硬化期→萎縮期と進行する。 - 関節症状
関節痛、こわばりが高頻度にでる。- 屈曲拘縮
- 筋症状
筋炎による圧痛が出現し、ついには筋力低下に至る。多発性筋炎とオーバーラップし、強皮性皮膚筋炎 sclerodermatomyositis となることもある。 - 消化管病変
- 呼吸器病変
- 間質性肺炎, 肺線維症
病変はしばしば下葉に始まり、乾性咳嗽と労作時呼吸困難の症状を呈する。
- 間質性肺炎, 肺線維症
- 循環器病変
冠動脈の攣縮による心筋障害がおこる。 - 腎病変
- 腎性高血圧, 悪性腎硬化症
腎動脈病変による悪性高血圧である。おそらくレイノー現象と同じく腎血管の攣縮に起因するものと考えられる。 - 強皮症腎クリーゼ scleroderma renal crisis
突如として発症した腎性高血圧が急速に進行して腎不全に陥ったものであり、予後不良である。乏尿・浮腫・溶血性貧血・中枢神経症状を伴う。
- 腎性高血圧, 悪性腎硬化症
検査所見
- 消化管造影
- 食道造影所見
食道下部の拡張像が高頻度に認められる。食道下部に好発するのは本症では主に平滑筋が線維化してくるからである。 - 注腸造影所見
腸管の拡張や偽憩室が見られ、特に偽憩室は本症に特異性の高い所見である。
- 食道造影所見
- 呼吸器検査
胸部X線および胸部CTでは間質性パターンの陰影が見られる。呼吸機能検査では拡散障害による 肺拡散能 (DLCO) 低下と拘束性障害による%VCの低下が見られる。 - 免疫学的検査
- 高γグロブリン血症
- 骨関節X線所見
手指末節骨尖端の吸収像や皮下石灰沈着が見られる。- 末節骨の骨融解
レイノー症状と同じく、終末動脈である手指の血管の攣縮に起因し、本症に特徴的な所見である。
- 末節骨の骨融解
合併症
- 原発性胆汁性肝硬変
- 悪性腫瘍
特に肺線維症を母地として肺癌が生じることがある。 - 逆流性食道炎
食道の粘膜下筋層が線維化を来たして食道下端が拡張するため、逆流を生じやすくなる。 - 血栓性血小板減少性紫斑病
病理所見
真皮中下層の膠原線維の膨化、線維間の浮腫が認められる。病期が進行すると表皮の萎縮化が見られる。
治療
本症に特効的な治療法はなく、日常生活指導が最も重要となる。薬物療法としては、各臓器の病変に応じた薬物の投与が行われる。
病変部位 | 症状 | 生活指導 | 薬物療法 |
---|---|---|---|
皮膚 | 皮膚硬化 | 皮膚の保護 | (ステロイド) |
潰瘍 | PGI2 | ||
レイノー現象 | 保湿・禁煙 | Ca拮抗薬, PGI2, ARB | |
肺 | 肺線維症 | 禁煙 | シクロホスファミド |
肺高血圧症 | 避妊 | ETR拮抗薬, PGI2 | |
消化器 | GERD | 食事療法 | H2ブロッカー, PPI |
腎臓 | 腎クリーゼ | 食事療法 | ACE阻害薬 |
参考)東洋療法学校協会編, 臨床医学各論 第2版; p.277-279(リウマチ性疾患・膠原病 – 全身性硬化症, 強皮症)
参考)医療情報科学研究所, 病気が見える vol.6 免疫・膠原病・感染症 第1版; p.80-83 (強皮症 – 全身性強皮症, SSc)
参考)医学教育出版社, 新・病態生理できった内科学 6 免疫・アレルギー・膠原病 第2版; p.136-142 (膠原病 各論 – 強皮症)
参考)矢﨑 義雄 他, 内科学 第九版; p.1076-1079 (リウマチ性疾患 – 全身性強皮症)
1)近藤 啓文, 4.抗トポイソメラーゼI抗体・抗セントロメア抗体, 日本内科学会雑誌, 1998, 87 巻, 12 号, p. 2409-2413
2)宮川 幸子, 坂本 邦樹, 抗RNP抗体の臨床的意義, 日本皮膚科学会雑誌, 1981, 91 巻, 12 号, p. 1293-1297
3)梅原 久範, 田中 真生, 正木 康史, 福島 俊洋, 2.強皮症(全身性硬化症), 日本内科学会雑誌, 2007, 96 巻, 10 号, p. 2165-2170
4)安岡 秀剛, 3.強皮症, 日本内科学会雑誌, 2014, 103 巻, 10 号, p. 2481-2486
5)筒井 裕之, 1.心筋疾患の分類~変遷と現状~, 日本内科学会雑誌, 2014, 103 巻, 2 号, p. 277-284
6)日本皮膚科学会ガイドライン, 全身性強皮症 診断基準・重症度分類・診療ガイドライン, 日皮会誌,2016, 126(10),p.1831-1896
7)難病情報センター, 強皮症における診断基準・重症度分類・治療指針2007
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