概念
ヒト免疫不全ウイルス(Human Immunodeficiency Virus, HIV)が免疫細胞に感染することにより、免疫不全を起こす疾患。HIVは細胞膜表面のCD4抗原をレセプターとするので、ヘルパーT細胞、単球・マクロファージ・樹状細胞などが感染の標的となる。
病態生理
HIVが免疫細胞、特にヘルパーT細胞に感染することにより免疫機能が低下していく。その結果、日和見感染や悪性腫瘍などの臨床的症状を呈するようになった状態を後天性免疫不全症候群・エイズという。
症状
1 急性期(HIV感染2〜4週間後)
発熱、咽頭炎、リンパ節腫脹、関節痛、筋肉痛、皮疹などがみられるが数週間で消失する。いわゆる風邪と症状が似ているので、HIV感染と気づきにくい。感染後、数週間から1ヶ月程度で抗体が産生され、ウイルス濃度は激減する。
2 無症候期(数年〜十数年)
急性期を過ぎて症状が軽快すると、概ね数年から十数年の間、特別な症状が起きない無症候期となる。だが体内ではHIVが盛んに増殖を繰り返し、それに対応するためにCD4陽性T細胞が作られ、ウイルスがCD4陽性T細胞に感染し破壊するというプロセスが繰り返される。よって見かけ上は血中ウイルス濃度は低く抑えられているが、数年〜数十年を通じてCD4陽性T細胞は徐々に減少していく。
3 発病期
エイズ関連症候群期
全身倦怠感、体重の急激な減少、慢性的な下痢、過度の疲労、帯状疱疹、発熱、咳など風邪によく似たエイズ関連症候群を呈する。また、顔面から全身にかけて脂漏性皮膚炎もこの時期に見られる。
エイズ発症期
CD4陽性T細胞の減少により、健常人ではかからないような多くの日和見感染や悪性腫瘍が生じる
検査所見
- 抗体検査
HIV抗体が検出可能となるまでに、通常1〜3ヶ月かかる。この間に検査を行った場合、HIVに感染していても、陰性と判定される。この期間をウインドウ期間という。よって感染の機会があってから3か月(検査機関により異なる)以上経過した後が望ましい。 - NAT検査(核酸増幅検査)
ウイルスの遺伝子である核酸を複製する方法で、抗体検査に比べウインドウ期間の短縮が可能。感染の機会があってから2ヶ月以上経過した後で信頼できる結果が得られる。
治療
- HAART(Highly Active Anti-Retroviral Therapy:多剤併用療法)
複数の抗HIV薬(逆転写酵素阻害薬、蛋白分解酵素阻害薬など)を組み合わせて使用する。
HAART療法は2000年初頭くらいまでは年間に1万ドル以上が必要であったが、現在はインドやタイ、ブラジルで安価なジェネリック薬が生産されるようになり、2001年末にはHAARTに必要な薬価は350ドルに低下した。
日和見感染対策としては、病原体に感受性のある抗菌薬や、悪性腫瘍を合併した場合には、制癌剤が投与される。
参考)東洋療法学校協会編, 臨床医学各論 第2版; p.18-19(感染症 – エイズ・後天性免疫不全症候群)
参考)医学教育出版社, 新・病態生理できった内科学 第2版 感染症; p.59-65 (日和見感染症 – 後天性免疫不全症候群)
参考)医療情報科学研究所, 病気が見える vol.6 免疫・膠原病・感染症; p.258-267 (ウイルス感染症 – HIV感染症/AIDS)
参考)矢﨑 義雄 他, 内科学 第九版; p.279-284 (ウイルス感染症 – HIVとAIDS)
献血で採取された血液はHIVやその他のウイルスの有無を調べるために抗体検査・NAT検査がおこなわれていますが、検査目的の献血を防ぐため、HIV検査陽性であっても、献血者本人に知らせることはありません。献血では全血に対して検査が行われますが、感染初期ではHIV感染があっても検査所見は陰性となるウインドウ期間が存在します。よって絶対に検査目的での献血は行わないでください。
かつては不治の病として恐れられたエイズも、薬物療法の進歩により早期に発見し抗HIV薬の治療を始めれば、健常人とほぼ同等の余命が得られるとのデータもでています。自分だけではない、身の回りの大切な人を守るためにも、不安な方は検査を受けてください。
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