マインドフルネス・イーティング(糖尿病に応用するマインドフルネス)




マインドフルネスとは

今の瞬間の現実に気づきを向け、

その現実をあるがままに知覚し、

それに対する思考や感情には囚われない

こころの持ち方、存在の有様

熊野宏昭 (2009)「ACT(アクト)言葉の力をスルリとかわす新次元の認知行動療法」『心のりんしょう a・la・carte』28(1), 星和書店, p.22

『いま、ここに集中』

科学的根拠(文献調査)
大賀英史 (2008),「マインドフルネス認知療法の原理に基づく新しい食事と運動アドバイス -治療薬の服用が不要になった境界型糖尿病患者の事例を中心に」『臨床栄養』112(3), p.335–339.

症例(大賀 2008)

  • 年齢・性別
    60歳男性(H氏)
  • 身体計測値
    身長167.8cm,体重88.8kg,BMI31.5
  • 現病歴
    糖尿病,血圧は134/70mmHg(服薬中)
  • 家族構成
    妻との二人暮らし(長男結婚し独立)
  • 仕事内容
    施設メンテナンス会社 管理業務
    (身体作業量は事務職と同程度)
  • 通院頻度
    定期的な検査のために2ヶ月に1回
  • 服薬歴
    糖尿病治療薬(ジベストB)50mg
    高血圧薬(ブロプレス錠8)それぞれ約6年間服薬
  • 喫煙習慣
    40年前より平均40本/日
  • 栄養指導
    糖尿病と診断された年に数ヶ月おきに数回、その後、6年間で2度ほど受ける

マインドフルネスに基づいたアドバイス – 食事

  1. 食事量、飲酒量、エネルギーなどの数値にあまり神経質にならず、“好きなものを好きなときに好きなだけ” 食べる。
  2. 食事の前と途中に、深呼吸を行い、ゆったりとした気分になって食す。
  3. 食事の味を「味の余韻を聴くように」して味わうことに集中する。味覚以外の五感もフルに働かせ、食事の最中に入ってくる感覚情報(香りや色)も味わうようにする。

体重、胸囲、摂取エネルギーの変化(大賀 2008)

体重、胸囲、摂取エネルギーの変化 - 大賀英史 (2008),「マインドフルネス認知療法の原理に基づく新しい食事と運動アドバイス -治療薬の服用が不要になった境界型糖尿病患者の事例を中心に」『臨床栄養』112(3), p.335–339..png

検査数値の変化(大賀 2008)

検査数値の変化 - 大賀英史 (2008),「マインドフルネス認知療法の原理に基づく新しい食事と運動アドバイス -治療薬の服用が不要になった境界型糖尿病患者の事例を中心に」『臨床栄養』112(3), p.335–339..png

H氏の感想(大賀 2008)

(1) 従来の栄養指導との差異

これまでの栄養指導では“”とか“味わう”という言葉は聞いた覚えがなかったので、自分にはこれがとても新鮮だった。

それによって、感覚が蘇ってくる。食べ方を変えることで五感が復元でき、生き生きとしてくる。いままでも食事指導は受けていたが、今回は自然に無理なく改善できている

(2) 取り組む姿勢

今回は、これまでのように “痩せたい” と思わなかった。周囲は変化に驚き、賞賛もいただいたが、誰かに褒められたい、といったことが、動機付けになったわけではない。あくまで自然体で努力しないというモットーを守ってきた

(3) 食べ方と満足感

これまで “満腹” すればいいと、食事をエサのように食べていた。習慣として口から物を入れているだけで味わっていなかったが、味わうことで、結果的によく噛めるようになり、“満足”もできるのだということを体験的に知った。駅前での麺類やカレーの立ち食いでかき込む回数がだんだん減っていったのは、腹は膨れても、味わって噛まないことから、“満足”しなくなったからだと思う。噛もうと思ってもよく噛めないが、ゆったりした気持ちでよく味わうとよく噛めるようになるのがこの方式の最大の特徴だと思う。

(4) 生活や自己の全般の変化

食事がおいしくなった。家庭での食事に、「おいしい おいしい」というようになったら、次第に家庭内の雰囲気まで変わっていった

以前よりなぜか身の回りを苦もなく整理するようになり、妻からうるさくいわれなくなった。

以前は、ボケーつと歩いていたのが、音とか景色を味わって歩くようになった。

いままで、当たり前だと思っていたのが、自分をみつめたり、自分全体を見直すきっかけとなった

味わうことに意識を集中する食べ方により、満腹感ではなく満足感が得られ、また、味わって食べるとよく噛めるようになる。

マインドフルネス認知療法の原理に基づく食事と運動アドバイス (要点)

  1. 食事や歩行の最中に、五感をフルに働かせ、能動的に感覚刺激を味わう
  2. 食事を少なくしよう、噛もう、もっと歩こう。と心の片隅には残しつつも、正面から意識しないようにする(目標を意識すると、味や歩く楽しさがわからず、苦行のように感じて、実行できなくなる)
  3. 努力をしようとせず,自然体で臨むと、「結果的に」一般的に望まれる目標を超える行動や検査値になることがある

大賀英史 (2008),「マインドフルネス認知療法の原理に基づく新しい食事と運動アドバイス -治療薬の服用が不要になった境界型糖尿病患者の事例を中心に」『臨床栄養』112(3), p.335–339.

食べる瞑想 – マインドフル・イーティング

「食べる」という行為に集中するための訓練法(レーズン・トレーニング)

  1. レーズンを観察することに注意を集中する。
    初めて見るようなつもりで観察します。指でつまんだ感触を確かめ、色や表面の状態に注意を払います。
  2. 次に、しばらくレーズンの匂いをかぎ、最後にレーズンを口に入れるために腕が手を持ち上げ、心と体が食べものを予期して唾液を出すのを意識しながら、唇にレーズンを乗せます
  3. そのままレーズンを口にいれ、一粒のレーズンの本当の味を確かめながら、ゆっくりとかみしめます。
  4. 十分にかんだら、飲み下すときの感触を確かめながら飲み込みます。飲み込むという行為でさえ、意識的に体験することができます。
  5. 飲み込んだ後に、自分の体がレーズン一粒分だけ重くなったような感覚を意識する。

トレーニングを行った人の感想

  • いままでこんなふうにレーズンを食べたことはなかった
  • 一粒を食べ終わらないうちに、いつのまにかもう一粒に手を伸ばしていた自分に気づいた

多くの人が、食事のときに注意が食べ物以外の何かに向いていることが多い
(マインドレス・イーティング)

食事とは空腹を満たすための行為 → 満腹となるまで食べるのをやめない→ 過食 → 高血糖

John. Kabat-Zinn(著) 春木 豊(訳) (2013)『マインドフルネスストレス低減法』,京都, 北大路書房, p.46-50

マインドフル・イーティング4箇条 – STOP

  1. Select (選ぶ)
  2. Taste (味わう)
  3. Observe (観察する)
  4. Pause (一時停止)
1. Select (選ぶ)

あたかも、これまでに食べたことのない食べ物であるかのように、プレートの上に乗っている食べ物の色や形、大きさに注意を向けます。

その中から、あなたがいまから食べたいものを選びます。

2. Taste (味わう)

その食べ物を味わうことに集中します。

風味だけでなく、食感、温度、粘り気など五感をフルに活用します。

咀嚼を続けることにより、味や食感が変化していきます。その変化をただ味わいます。ゆっくりと意図的に噛みます。

3. Observe (観察する)

飲み込むときに、その食べ物が咽頭や食道を通る感覚を観察します。

食べ物が並ぶ食卓、そこで食事をしている自分。一緒に食事をしている人。食事の時間を楽しみながらも観察を怠らないようにします。

テレビがついていたとしても、テレビには意識を注がず、ただ食べ物と食事という行為に集中し、観察します。

4. Pause (一時停止)

飲み込んだ後、次の食べ物をとる前に、一呼吸、一時停止します。

決して、まだ口の中に前の食べ物が入っている間に、次の食べ物をとってはいけません。ひとつひとつの食べ物をきちんと味わって、一息いれて、つぎの食べ物をとります。

これは、食べるという行為に夢中になり、いつの間にか過食をしてしまうことを防ぎます。

Diabetes Self-Management. (2017). How to STOP. Retrieved July 17, 2017, from https://www.diabetesselfmanagement.com/nutrition-exercise/nutrition/the-benefits-of-mindful-eating/how-to-stop/

マインドフル・イーティングの2型糖尿病に対するエビデンス

米国オハイオ州立大学の研究報告 (2014)

52名の糖尿病をマインドフルネス・イーティング群とスマートチョイス群の2群に分けて、その効果をランダムか比較試験により検証した。

  • 27名:マインドフル・イーティング群
  • 25名:糖尿病自己管理教育 (スマートチョイス群)
    スマートチョイス:従来より行われている、糖尿病に関する知識、自己効力感、および食生活の改善を目的とした医学プログラム

結果、双方の治療法はほぼ等しい効果であった。よって患者は治療法を選択することができるようになった。患者の糖尿病セルフマネジメントに対するとても良い選択肢になるであろう

Miller, C. K., Kristeller, J. L., Headings, A., & Nagaraja, H. (2014). Comparison of a Mindful Eating Intervention to a Diabetes Self-Management Intervention Among Adults With Type 2 Diabetes: A Randomized Controlled Trial. Health Education & Behavior : The Official Publication of the Society for Public Health Education, 41(2), 145–154. http://doi.org/10.1177/1090198113493092

結論

以上のことより、マインドフルネス・イーティングは鍼灸・あん摩マッサージ指圧師の臨床において患者さんのQOL向上に貢献できる可能性がある。


運動療法・食事療法はアドバイス可能
糖尿病の3大治療法は薬物療法・運動療法・食事療法です。薬物療法はもちろん医師のみが行えることですが、運動療法・食事療法に関しては鍼灸・あん摩マッサージ指圧師がアドバイス可能な領域です。

EBP (evidence-based practice) という言葉があります。「個々の患者のケアについての臨床判断を下すにあたって、現在の最良の研究エビデンスを思慮深く、明示的かつ良心的に用いること。」という意味です。勉強に終わりはありません。


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